口の健康でQOLを上げる③
- 康弘 若菜

- 7月20日
- 読了時間: 7分
今回は健康関連QOLと口腔の健康について、もう少し掘り下げてご説明いたします。健康関連QOLとは、対象となる人の身体の状態や心の状態、社会的なつながりなどを総合的に表す指標です。
健康な人や患者さんがそれぞれの健康状態を把握したり、地域集団で利用した場合には地域医療政策に反映したり、医療福祉関係者だけでなく行政担当者まで広く使われています。この健康関連QOLとはどのようなものか?また口腔の健康との関連について簡単にご説明いたします。

目次
<健康関連QOLの概念>
<分類>
◇測定の尺度による分類
1.プロファイル型利点と欠点
2.インデックス型利点と欠点
◇利用目的による分類
<口腔の健康と健康関連QOLー文献紹介>
◇要旨
<健康関連QOLの概念>
健康状態がその人の生活や心理状態あるいは社会環境に与えている影響について、エビデンスに基づいた指標を用いて客観的にとらえるものが健康関連QOLの概念です。
健康関連QOLを直感的に示した概念図が、厚生労働省の研究班による公表資料の中から見つけました。健康関連および口腔関連QOLが核となり、生きがいや満足感・幸福感を生み出していること、さらにはそれらQOLに影響を及ぼしている外的要因について分かりやすく示されています。

<分類>
◇測定の尺度による分類
プロファイル型尺度とインデックス型尺度(あるいは選考に基づく尺度といわれるもの)に分類されます。プロファイル型尺度は単一指標であるスコア(効用値)と比較して、身体・精神・社会的役割などを多方面から評価する特徴がありますが、結果の解釈が難しいといった欠点もあります。SF-36はその代表です。
インデックス型尺度は選考に基づく尺度ともいわれ、各側面の回答から0~1にスコア(効用値)化された複数の尺度を合成して、重みづけを行い一つの総合得点にまとめる手法です。
インデックス型尺度はPBM(Preference-based measures)と表記され、PBMから得られるスコア(効用値)は生存年数と掛け合わせることで、質調整生存率(Quality-Adjusted Life: QALY)算出に用いられ医療における費用対効果分析等の医療経済評価において大事な指標とされています。
それぞれの利点欠点を以下に箇条書きに記します。
1.プロファイル型利点と欠点
ー利点ー
・主観を細かく反映できる
・問題点が把握しやすい→多職種連携に使いやすい
・治療効果の判定に向いている
ー欠点ー
・総合値がないため比較が難しい
・専門的な解釈が必要
2.インデックス型利点と欠点
ー利点ー
・総合値が定まるので比較が容易
・医療政策立案や医療経済評価への利用
ー欠点ー
・重みづけを行う場合に妥当性が保てない→とくに文化価値観の違いが影響
・多方面の解釈ができず問題領域の判別が困難
この利点欠点に関して、AIに簡単にまとめた文章を作成させました。その結果上手に作表してくれましたので、以下にテーブルを添付させていただきます。
尺度タイプ | 特徴 | 使いどころ |
プロファイル型 | 多次元をそのまま示す。総合点なし | 臨床評価・ケア計画・多職種連携 |
インデックス型 | 重みづけして単一の総合得点に統合 | 医療経済評価・政策判断・比較研究 |
◇利用目的による分類
健康全般のQOLをとらえる包括的尺度と、対象疾患を限定して評価する疾患特異的尺度に分けられます。
こちらも両者の違いについてAIによりテーブルを作成させました。とても分かりやすいのでぜひご参照ください。
疾患特異的尺度についてそれぞれの対象疾患ごとの説明は、専門書等に委ねさせていただきます。こちらでは総論のみお伝えいたします。
尺度タイプ | 目的 | 強み | 弱み |
包括的尺度 | 疾患横断的な比較、政策評価 | 汎用性、比較可能性、効用値化 | 疾患特有の症状を拾いにくい |
疾患特異的尺度 | 特定疾患の症状・生活障害の把握 | 感度が高い、臨床的有用性 | 疾患間比較ができない |
<口腔の健康と健康関連QOLー文献紹介>
口腔の健康と全身の健康関連QOLとの関連を扱った文献は、現在までさほど多くはありません。2026年に学術雑誌に掲載された東北大学大学院歯学研究科歯科保健学分野の原田真奈美先生らによる報告があります。エビデンスレベルの高い原著論文を、電子データベースとハンドサーチにより検索し、文献レビューを行った報告です。
↓ ↓ ↓
◇要旨
1.口腔の健康状態と健康関連QOLの関係
・歯の喪失、顎関節症、う蝕、歯周疾患、咬合状態、咀嚼時不快感、咀嚼能力、主観的な口腔の健康状態、歯痛、口腔衛生状態、口腔顔面痛、オーラルフレイル、口腔機能低下、発音時不快感、口腔症状数(咀嚼障害、嚥下障害、口腔乾燥の症状数)においてインデックス型尺度(PBM)による評価が行われ、すべての指標において健康関連QOLと有意な関連が認められた。(EQ-5D、EQ-5D-5L、EQ-VAS、15Dが評価尺度として用いられていた)
・国内の研究では、スコア(効用値)が報告されていたのはEQ-5D-5L(包括的尺度)で評価された歯の喪失および口腔機能低下のみ。いずれも日本人のMIDである0.0044を上回るスコア(効用値)の低下が認められた。
*MID(最小重要差)とは、患者自身が臨床的に意味のある変化だと感じる変化量の最小単位のこと。詳しくは専門書をお読みください。
・口腔粘膜疾患(口腔白板症、粘膜下繊維症、口腔灼熱症候群など)、睡眠時ブラキシズム、摂食嚥下機能低下、歯・口腔に対する不満、口腔乾燥、骨格性Ⅲ級不正咬合患者における口唇口蓋裂、歯の疾患、炎症性疾患、嚢胞性疾患についてはプロファイル型尺度による評価は行われていたが、PBMによる評価は行われていなかった。上記疾患のうち、睡眠時ブラキシズム、口唇口蓋裂以外の指標において、健康関連QOLと有意な関連が認められた。
2.歯科治療と健康関連QOLの関係
・従来型義歯、インプラントオーバーデンチャー、インプラント、根管治療、無歯顎者に対する補綴装置においてインデックス型尺度(PBM)による評価が行われていた。
・上記のうち無歯顎者に対する補綴装置以外の指標において、効用値が報告されていた。
・国内の研究では、スコア(効用値)が報告されていたのはEQ-5D-5Lで評価された従来型義歯、HUI3で評価されたインプラントおよび従来型義歯であった。EQ-5D-5Lで評価された義歯使用については、無歯顎群において義歯使用によるMIDを上回る改善が認められた。HUI3のMIDは日本人の値は報告されたいないものの、国際的には0.03とされていて従来型義歯治療のみでMIDを上回る改善が報告された。
・歯周治療、オフィスホワイトニング、う蝕修復治療、睡眠時ブラキシズムに対する咀嚼筋マッサージおよび咬合スプリント治療、ブリッジ、口臭治療についてはプロファイル型尺度による評価は行われていたものの、インデックス型尺度(PBM)による評価は行われていなかった。
・上記のうちオフィスホワイトニング、ブリッジ以外の指標において健康関連QOLとの有意な関連が認められた。
3.歯科保健行動と健康関連QOL
・1年以内の歯科受診、歯磨き頻度、口腔保健に対する信念(大量の甘い食べ物を避ける、フッ化物入り歯磨剤の使用、定期的な歯科受診、歯・歯肉を清潔に保つ、フッ化物添加水を飲む、フロスを使う)、歯科医院でのクリーニング、歯科医療サービスへのアクセス(歯科受診、保険種別、受診目的、歯科医師へ相談することへの恐怖、健康教育、歯科治療ニーズに関する自己認識)について、プロファイル型尺度による評価は行われていたが、インデックス型尺度(PBM)による評価は行われていなかった。
・歯科医療サービスへのアクセスを表す項目では、歯科受診のみが健康関連QOLとの有意な関連が認められた。歯磨き頻度や口腔保健に関する信念、歯科医院でのクリーニングについてはいずれも健康関連QOLと有意な関連が認められた。
筆者らは考察の中で、「歯の喪失」「口腔機能低下」のいずれもMIDを上回るスコア(効用値)低下をもたらすことが示されたことより、この領域の公衆衛生学的介入の重要性を述べています。
歯科治療においては、従来型義歯はインデックス型尺度(PBM)によるエビデンスが蓄積されているが、健康関連QOLへ与える影響としては報告結果が分かれているところ。口腔関連QOLと比較した全身の健康関連QOLの感度の低さを指摘した過去の論文もあり、インプラントがスコア(効用値)に与える影響とともに、この分野の研究が進められることを期待する記述がありました。
歯科保健行動と健康関連QOLの関連では、インデックス型尺度(PBM)により評価された文献はほとんどなくエビデンスが十分とは言えず、医療経済評価を通じて政策立案者の意思決定を支援するためにも、インデックス型尺度(PBM)による評価の充実を求めています。
いかがでしょうか。3回にわたるQOLについての記事を少しでも眺めていただければ、今回ご紹介した学術文献を、より深いところまで理解することができるのではないかと思います。ぜひ多くの文献に触れることをお勧めします。
次回に続く



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